仏教が説くのは人の心です。この世のことは、すべて自分の心が作り出した幻影にすぎないと説きます。私たちは自分の都合のいいように真実を曲げて解釈します。真実を真実として見ないのです。この過ちは、阿羅漢(あらかん)と呼ばれる最高位の聖者以外は誰でも例外なく犯しています。
仏教は「あなたが真実だと思っていることは真実ではない」と説きます。あなたが見ている世界の外に、あなたの知らない真実があるということです。それゆえ私たちは物事を断定的に見たり、断言してはならないのです。自分では真実を語っているつもりでも、実際は自分の思い込みを相手に押しつけているにすぎないからです。「ぜったい~だ」といった断言の多い人は、自分自身と自分の世界に対して執着心が強く、真実を求める心に欠けた人と言えるでしょう。そのような人は虚言が多いために結局は信頼を失います。
仏教は、私たちに一つの正しい生き方を教えてくれます。それは「いつも謙虚であれ」ということです。世間では、謙虚であることが時として弱気ととられたり、愚かと見られることがあります。その結果、自分を卑下することになりかねません。しかし真の謙虚は、そうではありません。自分の思い込みを客観的に自覚し、その心が発する言動を抑え、自分の外にある真実を見ようと努力することをいうのです。智慧と勇気があって初めてできることです。智慧によって、すべては自分の心が作りだした幻影だと自覚し、勇気をもって自分の殻を破り真実を探求するのです。そのような人を仏教では「真理をより所とし、他の何にも偏らない人」と呼びます。謙虚であることは、真実に生きることと同じなのです。
正雲寺副住職 無聖(むしょう)
http://shounji.or.jp